欧州の謎 2013 5 18
これは、数年前から何度も書いてきましたが、
重要なことなので、繰り返し書きましょう。
税収は、名目GDPに比例します。
単純に考えれば、緊縮財政は、名目GDPを縮小させます。
名目GDPが縮小すれば、当然、税収も縮小します。
数年前から始まった「欧州財政危機」においては、
ひたすら「緊縮財政」がスローガンのように叫ばれました。
結局、欧州の目標は、いったい何だったのか。
「税収を減らすことが、欧州の目標だった」と言わざるを得ません。
経済学の教科書で考えれば、
景気が過熱してきたら、緊縮財政と利上げが必要です。
一方、不景気になったら、財政の拡大と金融緩和が必要となるでしょう。
難しいことを考えすぎると、経済政策の迷路に入ってしまいます。
要は、名目GDPを拡大させる政策を取るべきです。
もちろん、「緊縮財政」と「大胆な規制緩和」を組み合わせる政策で、
名目GDPを拡大させる方法もあるでしょうが、
これは、操縦方法が難しく、上級者向けの政策です。
そもそも、欧州においては、
緊縮財政の話は聞いても、
「大胆な規制緩和」の話は出ていなかったと思います。
欧州の謎は、深まるばかり。
今日の朝日新聞には、このような記事がありました。
「オランダ、沈む住宅市場」
「欧州経済の優等生と見られてきたオランダで、異変が起きている。
住宅価格が下落し、景気の悪循環から抜け出せなくなっている」
この記事は、読めば読むほど、
1990年代における日本の「バブル崩壊後」に似ています。
中高年の人は、「ああ、日本でも、そういうことがあった。
今となっては、懐かしい」と思うのかもしれません。
欧州版の「失われた10年」は、
今年で何年目になるでしょうか。
ところで、欧州の人たちは、
「バランスシート不況」について知っているでしょうか。
ケインズの受難 2009 9 27
書名 世界同時バランスシート不況
著者 リチャード・クー 村山昇作 徳間書店
この本は、バブル経済崩壊後の日本について書いてあります。
(以下、引用)
資産価格が87%下がってもGDPを落とさなかった日本の経済政策は正しかった。
(中略)
しかし、日本のすごいのは、バブルが崩壊してからである。
1990年を境に商業用不動産価格は大暴落する。
一挙に価格が87%も下がってしまった。
ところが、日本のGDPは落ちていないのである。
落ちないどころか、過去18年間、一度もバブル期のピークを下回ったことがない。
(中略)
日本は、そこまで資産価格が下がったにもかかわらず、
GDPは落ちなかったし、失業率は6%に達することなく反転した。
「これでも日本の経済政策は間違っていたと思うのか」と言うと、
彼らは(欧米人は)、初めて「あっ」となるのである。
(以上、引用)
バブル経済崩壊後の日本の経済政策については、
誤解されている点が多いと思います。
現在、バブルが崩壊したアメリカにとって、参考になると思います。
さて、もうひとつ引用します。
(以下、引用)
これまでの経済学には、残念ながらバランスシート不況という考え方は、
全く存在しなかった。
ケインズも処方箋としては正しいことを言ったが、
なぜ財政出動なのかという説明は全くの的はずれだった。
財政出動というのは、バランスシート不況の時だけ効果を持つものであって、
それ以外の時は、むしろ逆効果になってしまうのである。
ケインズは、そのことに気付かなかったために、
ケインズが神様扱いになった戦後20年は、
多くの国々でバランスシート不況でない時も、
財政が乱用されてしまった。
しかし、バランスシート不況以外での財政出動は、
高金利やインフレ、そして資源配分の歪み等の逆効果をもたらし、
その結果、財政出動自体が全面否定されるようなことになってしまったのである。
1970年代に「ケインズは死んだ」などと言われたのは、
まさにそこからきている。
(以上、引用)
つまり、この数十年は、「ケインズの受難」だったかもしれません。
しかし、師匠の学説を弟子が完成させるということも、歴史上あったと思います。
今、やっとケインズ理論は完成したと言えるでしょう。
「ケインズは死んだ」ではなく、「ケインズは始まった」でしょう。
参考までに、バランスシート不況とは、著者によれば、
「借金でファイナンスされたバブルが崩壊し、
借金に見合う資産がなくなった民間が、
一斉に利益の最大化から債務の最小化にシフトすることで起きる不況である。
(中略)
この不況では、バブルに乗って借金までして投資に走った人々が、
バブルの崩壊によって資産価格が暴落すると、
負債だけが残り、債務超過という状況になる。
資産より負債がはるかに大きくなるからだ。
そのような状況に置かれた企業や個人は、どのような行動を取るかというと、
当然のことながら、毀損したバランスシートを修復するため、
必死に債務を減らすようになる」と定義している。